河を渡る

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その本の表紙を開くと貝殻が埋まっていて、その色は陶磁器のような青だった。それを取り出し、2枚の合わさった先端で紙を擦る。文字が浮かび上がってくる。
「こんなに美しい筆記体を久しぶりに見た。」
敬愛する作家はそう言っていた。
霊体のコレクションだ。貝の羅列、虫の羅列、人骨の羅列。
「ねえ、どうしたらいい?」と、わたしはひたすら話しかけていた。どうしたらいい。朝、1枚ずつ着る服を選びながら、パジャマを脱ぎながら、相手の顔も見ずに言う。わたしはこのとき、この問いを投げかけることが許されている人間がすぐ傍にいつもいるという重要さに気づいていなかった。