皆既食

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この夜。この夜が心臓に立ちこめる愛しさを暴き出すこと、そのあとに、現実がひどくやさしく現れるこの夜に、温度なんて要らないものだろう。寂しいと思ったことなんて一度もなかった。なのに、胸のなかが空っぽで、この物足りなさは何なのだろう。苦しくて死にそうだ。死なんて考えたこともないくせに。主語のない思い。ウォークマンを付けたり消したりして、一曲の終わりが待てない。何にもそぐわない。これらの音楽が接続する記憶、微睡む、夜の闇。狂おしいほどに何かを求めている。この常なる欲情が、愛なのか、恋なのか、その正体がわからない。だから怖い。傷付いたことなんて一度もないのに、もう二度と、という気になって、いつまでたっても恋愛小説は好きになれない。
でも大事なことばがたくさんあるからフィクションに生かされてる。ずっと居場所なんてないと思ってた。今日だって人生がまるで手につかない。遠くのなにかを思うことがわたしのすべてで、ここにある肉体はひどく怠い、物語に蚕食された胸が痛くて、肺が痺れる。空白の時間はそれに気付いて、まともに喰らってしまうから、何かに傾倒していたい、と思う。何も考えたくないから、離れられないよ。どうしても。だんだん皮膚に閃きつつある冷や汗の感覚を忘れようとするみたいに虚構にのめり込んで、脳を溶かす。ずっと同じこと言ってるし思ってる、どうせこれもまた忘れるくせに。