水のような石

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追われている。音もなく、混雑するプールから逃げるようにして。寂れた温泉施設のような、その土産売り場で、100円ずつの物語を見ていたかっただけなのに。ひたすら逃げ、壁を越え、すべてが焼き払われる。みんな死ねばいいのに。そんなことは思っていなかった。ただただ遣る瀬無い。そうだ、とふと脳に過ぎった友人のこと。あの子がいるはずのビルへ。塔のように聳え立つ12階を見据えて走った。詩人のうつくしい言葉。石碑に反射する夜の街灯に目のふちを灼かれながら、胸元の青い石を握り締める。石碑が昇り始める。そのビルの屋上に辿り着きたい。あの子ならこの気持ちを分かってくれるだろうと思った。ぶら下がり、降りた。降りた先には猫の死骸。女が毒を撒いたのだという。再び石碑を眺めると声がし、会いたくない女の声が、だから逃げるようにその場を離れた。屋上に辿り着くことはできなかった。