夜の河

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他人の楽しそうな声に押し出されてしまう夜の河のような部分、それはいとも簡単に干渉されてしまうけれど、少なくともわたしにはまだそれが流れていて、幽霊のように抜け出した繁華街に背中を向けながら、生温い風に負けじとライターを鳴らす、甘い煙草が一本、じりじりと燃え尽きる音を聴き、ごうごうと流れる河を見ながら、へらへらしているあの子は宮沢賢治を読まないだろう、でもそれでいい、あなたはあの青い水底を知らないでいてください、というような別れの手紙を脳で書いていた。わたしにはまだ詩があった。意外なことに。ぜんぜんやっぱりいらないと思った。アルコールで中和する世間とか、欲望とか、かなしみとか。内臓に流れる夜の河、それはことばを飲み込むたびに濁り、氾濫するけれど、この水の古い記憶、お金を稼いでいるあいだに何度も忘れてしまうたったこれらのことは、何度でも思い出し、いつまでたっても覚えている。